退職金のピークが30代後半となるようにしてはどうだろうか

 企業の退職金は、大抵、年齢が上がるにつれ上がっていくようになっている。

 日本の大企業であれば、定年に近づくほど上昇のカーブが急になっていく場合が多いであろう。
定年退職時に満額の退職金を受け取るのが最も得をする。貯金のようなものだ。途中で転職すると大損をすることになる。

 ところが最近は、大手企業でも退職者募集をしている例がいくらでもある。大抵は対象者は40代以降となっている。早いところでは30代の場合もある。

 企業の側からすると、支払う給料以上に利益が出ているのであれば退職者を募集するはずがない。年齢に比例するように、年功序列の給料を超えるように営業利益が増え、儲かっているのであれば人を減らすはずがない。また、年々、利益が減ったとしても、給料を減らすことができれば退職者募集をする必要がない。

 利益が出ておらず、なおかつ、正社員の給料を減らすこともできない。したがって、退職者募集が必要となる。割増退職金を支払って対処する。
 人の働きには年齢的なピークがあるということもできる。また、企業が年齢に比例するように人を活用することができない、年齢が上がっていく人々をマネジメントする能力がないということもできる。

 人の働きには年齢的なピークがあるということを認めず、年々、賃金が上がるものだとか、退職金は増えるものだという幻想を皆に持たせてしまう。このため、思い違いが生じて状況をさらに悪くしてしまう。
 学生は、皆、大企業や公務員、正社員に殺到する。正社員になった人は組織にしがみつく。高齢の人ほど、組織に強くしがみつく。あと数年、しがみつくかどうかで数百万円、場合によっては一千万円以上の差がつく。働いた内容によって額が決まるのではなく、既得権を手放さないかどうかで額が決まる。

 人の働きと収入が一致しなくなるので、いろいろなところで矛盾や制度疲労が大きくなる。
 多くの人々が努力をしている。しかし、社会にとってプラスになることというよりは、自分の既得権を強化することに注力するようになる。

 高度成長の時期であればそれでもよかったのであろう。しかし、いまは経済が成熟している。拡大路線は望めない。給料の元となる収入源には、必ず変動が起こる。年功序列の給料を減らすことは難しい。

 すると、退職金で調整するしかない。そこで、35歳くらいの退職金をピークとして、年々、退職金が減っていくような制度設計を促してはどうだろうか。

 例えば、大企業で35歳の退職金が1500〜3000万円程度でピークになるようにする。それ以降は、年齢が上がるほど退職金が下がるようにする。
 30代後半から40代の社員に抜けられると企業は困るかも知れない。しかしこれは、どこにピークを持ってくるかというバランスの問題だ。人の出入りを活発化させれば、企業側も、状況に応じたマネジメントが容易になる。
 社員の側も住宅ローンや子供の学費のために、合わない職場にしがみつくという無駄をせずに済むようになる。例えば、2500万円をローンで借りていて、一括返済ができるのであれば、将来の実質負担が500万円以上減るという事例はいくらでもあるであろう。社員の負担が削減できる。
 住宅ローンを一括返済して心機一転を図ったり、勤務形態や子育て、趣味など、自分の生活パターンに合った働き方を選択しやすくなる。