設計ツールのオープンソース化

 メカ設計用のCADソフト、電気回路のシミュレータ、プログラミング言語などを皆で作り直して、オープンソース化していったらよいとよく思う。

 現状では、CADソフトにしてもプログラミング言語にしても、ハイエンドの設計ツールとなると、米国製のものばかりだ。
 簡単な設計をしようとしただけで、高いライセンス料を支払って設計ツールを購入する必要がある。また、米国の企業により仕様が決められているため、一方的に、設計ツールの仕様が変更されてしまう。Windows のパソコンのようなものだ。仕様変更が年々続いていて、ユーザは疲弊していく。見限るユーザも出てくる。

 プログラミング言語の場合は、仕様が変更となると、技術者が競争から振り落とされていく。例えば、ソースコードをたくさん蓄積していたとしても、プログラミング言語の仕様を変えられてしまうと、ソースコードの修正の手間は膨大なものとなる。過去の蓄積が多いほど、それがかえって足かせとなる。競争力を失う要因となっている。設計ツールを牛耳られてしまうと、仕様を少し変更するだけで蓄積はレガシーな資産ということになる。マイナスの資産となる。
 デジタル化が進んだ結果、従来のソフトウェア技術者に起きていたことと同じ現象が、ソフトウェア以外の分野でも多発するようになっている。ソフトウェア技術者35歳定年説のようなものが、会計や法律の分野、機械設計、モノづくりの分野で頻発するようになったと考えればよい。

 ある特定の製品だけの話なら、その製品が便利なら、特定の企業に牛耳られていてもよいであろう。
 しかし、CADソフトや回路設計ソフトのような設計ツールの場合は、公共性が高い。そして、その技術分野に就職して実務をこなそうとすると設計ツールの習熟はほぼ必須となる。こうした基盤の部分が米国製となっているため、設計者個人の学習の負荷が重くなる。
 さらに、ライセンス料を考慮する必要がある。ハイエンドの設計ソフトの場合、ライセンス料が月あたり10万円を超えるものもざらにあるのではないだろうか。
 その設計担当者は自分の給料に加え、10万円分、余計に仕事をしないといけない。会社が払うのだから自分には関係がないと考えてはいけない。なぜ、日本の一流企業が続々と競争力を失っていったか考察しておいたほうがよい。月10万円を超えるランニングコストは高すぎると指摘したほうがよい。

 そこで、こうした公共性が高い設計ツールについては、自分たちで作り直す。そして、オープンソース化する。

 設計ツールオープンソース化するというところは、企業ではやりにくい。大抵、競合する企業があるためだ。ライバルの作った仕様を全面的に受け入れるということはお互いに難しい。自社独自の設計ツールを作っても、なかなか普及しない。

 オープンソース化や情報の共有化は、大学か、むしろ、個人のほうが向いている。大学などの授業で去年と同じ課題を出すくらいなら、実用で役に立つ課題を出したほうがよい。
 大学のプログラミングの授業で、設計ツールの一部分を作成するよう課題に出す。提出されたソースコードは皆で共有し、優秀な解答を指摘していくようにする。そうやって、よいアイディアを皆でシェアしたほうがよい。オープンソースにして、足りないところをつぎの課題とする。
 大学の機械工学や電気工学で設計をする場合も、オープンソースの設計ツールを使うよう推奨する。設計ツールのインターフェースは普及率に合わせて従来の設計ソフトと似通ったものにしておく。
 また、設計データも公開していく。設計ツールが使いにくければ、改善を課題にする。わかりやすいマニュアルがなければ、マニュアル作成を課題にする。日本語マニュアルが欲しければ、皆で作っていく。
 CNCなどの加工用の設計ツールも同じだ。不足しているところを自分たちで作り、公開していく。
 各設計ソフトのインターフェースも統一していく。データフォーマットも統一していく。簡単な機械設計と電気回路設計程度であれば、一人でも設計できるくらいにインターフェースを共通化する。つまづくところは修正する。
 実験設備を含め、設計ツールごと、自分たちで全部作るようにする。ゼロから作ってみることで、実力がつくはずだ。

 大学としては、基盤となる設計ツールの主導権を取る。これにより、優秀な学生や先生、成長企業を呼び込む。オープンソースであれば企業の参入は難しい。ライバルは参入しにくい。また、設計ツールを作っていた学生、使いこなせる学生ということであれば、その研究室のメーカーへの就職率も高くなるであろう。大学の生き残り策として、大学が何をすれば社会が効率化されていくのか、考察がされていてもよいはずだ。

 設計ツールオープンソース化されれば、設計データの共有も進む。例えば、3Dプリンタ用のデータだとか、電気基板のパターンなども容易にシェアできるようになる。個人でも容易に設計して製作できるようになる。

 基礎的な設計ツール無償化され、設計データも公開されていくと、生活コストを下げることができるようになる。

 例えば、家具にしても、設計ツールと設計データが無償で公開されていれば、一番、気に入った木製家具を自分で作ることができる。各部品を切り出すところは、必要に応じて、東急ハンズのようなところに依頼すればよい。
 また、介護にお金がかかるといっても、設計ツールが公開されていて、介護用の道具の設計データが無償で公開されているとよい。個人でも製作できるようになるからだ。身の周りで不便なところは改善し、その情報をお互いに共有化できるようにする。他人に頼ろうとするマインドがあると、高コスト化してしまう。

 大量生産に乗らない製品や、利益が見込めない市場を相手にする場合、企業では参入が難しい。少量生産では高額化する。かといって、役所に期待すると競争や効率が軽視されて、やはり税負担が増える。

 すると、基盤となるような設計ツールや設計データを公開していって、個人で製作できるようにしたほうが解決が早いであろう。全部オープンにしてしまえば、役所や他の企業が介入する余地も少なくなって効率化する。
 設計ツールが無償になれば、個人で設計を行う人もたくさん出てくる。大企業よりも優れた設計をする個人も出てくるであろう。設計データを高額で買収する企業も出てきて、個人の億万長者が生まれる。デジタル化が進んで低価格化は今後も進むはずだ。そうであれば、大量生産を至上とする従来の考え方から早く脱皮して、将来への転換を先に済ませたほうが有利だ。