ポイント制度一考

 ポイントカードを発行している飲食店があるけれども、支払い時に「ポイントカードを持っていますか」ということを聞くところがある。週に何度か行く店で、いつも同じ店員が対応していても毎回聞くのだ。

 飲食の場合、食事の選択肢は広いほうがよいので、自分の場合、ポイントの会員にはあまりならない。飽きたら行かなくなるし、食べたくなったら行くだけだ。
 サービス券をただ配るだけならまだよい。しかし、「ポイントカード持っていますか」と聞かれると、朝、急いでいても返事をしないといけないし、「その分、高いのか。煩わしいので他があればそちらに行きたいのだが」と思う。
 焼肉を1万円分食べて、帰りがけに「ポイントカードは持っていますか」と聞かれ、カードがなかったとする。ポイント還元率5%程度なら「焼肉1皿分損したのか」と思うことになる。これは、他店に行こうと思う動機としては十分だ。

 店側が勝手に決めたルールのため、店員と客との間で煩雑な受け答えをしないといけない。店員は「あっ、またこの人が来た」と思っている。客は「この前、ポイントカード持っていないっていったのに」と思いつつ受け答えをしている。大手百貨店や有名店でもそうだ。
 客がどう感じるかとか、当たり前の馬鹿馬鹿しさに気づくという、現場の皮膚感覚を失っている。本来のサービスがわからなくなっているのだ。

 その企業の本業を考えたとき、その「ポイント制度」は本当に必須であって、付加価値を生み出しているのだろうか。

 クレジットカードでもポイントカードでも、そのシステムを維持するためのコストがかかっているはずだ。
 その店で、ある一定の売り上げがあったとき、固定客や新規客の割合、固定客のうち、ポイント目当ての客が何%か、具体的な数値で推測できると思う。
 ポイントカードのコストが何%で、ポイントカードのやり取りで行列ができると他に流れる客が何%かも予測がつくであろう。
 その店に出入りする人々を見ていれば、ポイント制度を維持/廃止したとして、どれくらい固定客、新規の客が変動するか、おおよそ見積もることができるはずだ。

 もし本業で勝てる自信のある企業であれば、本業で勝負すればよい。コーヒー店だったらコーヒーで、パン屋だったら焼きたてパンで勝負すればよい。ポイント制度は廃止して、その分、本来のサービスに専念すればよい。

 本業で勝てない企業であれば、ポイント制度のように、本業以外のオマケで勝負するしかないであろう。売っている製品が他店と同じで、その店舗の存在意義が特にない場合は、オマケか価格で勝負するしかないであろう。新聞販売店が洗剤を配っているようなものだ。記事の内容では売れないということは、現場の販売員がよくわかっている。

 ポイントの種類が増えすぎて、すべてのカードを持ち歩くことはまれだ。
 家電量販店で商品を見て「買おう」と決めたとする。しかし、結構高い確率で、ポイントカードを家に忘れてくるので、買わなくなる。
 あとでネット検索をすると「ネット価格のほうが安い。まあ、必須ということでもないか」と気づき、やはり買わなくなる。

 ポイントカードの導入により、客が購買行動を起こすのに必要なハードルを1つ増やしてしまっている。
 すると、客に他店や他製品を検討させる機会を与え、ネット価格より高かったり、他によい製品があることがわかると、客はさらに購買行動を控えてしまう。客にとって、ポイント制度の存在意義が「安さ」なのであれば、そこで示される価格は最安値であることが必要であろう。
 しかし、余計なハードルを加えたことで、ネット価格より高くなっていることを客に気づかせるという結果となっている。客にとって最安値でもなく、店にとって客が増えるわけでもなく、購買行為の妨げとなっているのであれば、何のためにこんなことをやっているのだろうかということになる。
 再構築が必要になっているのだ。


 ポイント制度の特性を考えてみると、ポイントで意味があるかなと思うのは、現金でやり取りすると、社会的なコストがかかりすぎて成り立たないが、ポイントを流通させると効率化や波及効果がうながされるところだ。

 例えば、小銭をやり取りすると、そのための人件費のほうが高くなってしまう場合がある。そこで、現金のやり取りをやめて、ポイント通貨が使えるようにすると、取引が活性化するというようなところだ。
 ネットの小額決済も同じだ。10円程度のモノを物々交換していたとする。物々交換のたびに、いちいち現物を動かしていたり、現金や人手を介在させると、手間だけで10円を越えてしまうことはいくらでも起こりうる。
 そこで、暫定的にネット上でポイントで支払えるようにしたとする。すると、社会コストが下がるので、ポイントが存在する意義はあるだろう。社会コストが下がった分のあがりから、利益の源泉を得るのであればよい。

 JRのスイカなども同じだ。電車に乗るたびに、いちいち小銭や切符の現物をやり取りしていたのでは時間や手間のコストが大きすぎる。そこで、カードや電子マネーで支払えると、(乗降客数)×(時間短縮分)だけ、社会コストが下がる。社会コストを改善した一部から、カードの維持費を支払うのであれば、十分にペイすることになる。

 また、税制上の問題はさておくとして、株主に、株主配当を優待ポイントで還元することにして、配当にかかる税金分、優待ポイントを多く上乗せしたとする。こうすると、税金がかからなくなって売上が増加する分がプラスになる。
 言い換えると、他社は、優待ポイントを使わずに現金で株主に配当を出していたとして、株主は商品を現金で購入していたとする。その企業と株主は、納税分を余計に負担するので、しだいに衰退していくことになる。

 他に、コンビニや飲食店で現金で支払ったとき、つり銭をポイントカードにチャージできるとよい。また、財布に入っている全ての小銭を簡単にポイントにチャージできる機械があるとよい。
 小銭をやり取りする時間と手間はかならずコストになる。導入により社会的なコストが下がるのであれば、ポイント制度が存在する意義がある。